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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

これだけで十分!ドイツ語圏の旅の知識まとめ(言語、マナー、交通機関等)

 ウィーンやザルツブルク、ケルン、ミュンヘンなど、ドイツ語圏には魅力的な都市がたくさんある。長期休暇で行ってみたいけど、添乗員付ツアーだと何十万円もするし、かといって個人だと言葉が不安... 以下、そんな不安を即解消。

【基本情報】
 ほとんどの情報は『地球の歩き方シリーズ』に書いてある。よく使う単語やフレーズも載っている。
(以下、主に『地球の歩き方 ドイツ 2018-2019』に書いてあったこと以外を実体験を踏まえて紹介。)

【言語】
 観光本に真っ先に出てくるような大都市であれば、英語は全く問題なく通じる。看板の表記もドイツ語と英語で併記されていることが多い。また、地方都市であっても、いわゆる観光スポットは英語が通じる。(スタッフがはじめから英語で話しかけてくることも多い。ごくまれに日本語ぺらぺらのスタッフがいて驚かされる。)
 一方、各駅停車しか止まらないような中小都市やバスでしか行けないような田舎町では、基本的にはドイツ語しか通じない。とはいえ、実際に使う単語フレーズはわずか10個だけ。
 
1. こんにちは  グーテン・ターク
2. これ     ダス
3. ~をください ~ ビッテ
4. 1つ(2つ) アイン マル(ツヴァイ マル)
5. ここで    ヒーア
6. はい いいえ ヤー ナイン
7. すみません  エント・シュルディ グンク(スタッフを呼ぶとき)
8. お会計お願いします  ツァーレン・ビッテ
9. ありがとう(ありがとうございます)  ダンケ(ダンケ・シェーン)
10.  さようなら  アウフ・ヴィーダー ゼーエン
(※ゼーエンの部分をショーンと言っている現地人も。)

 これだけ覚えればもう十分すぎるくらい。

売店やスーパー】
 駅ビルの売店やパン屋、スーパーなど、電子式の大きなレジがあるところでは多少大きい金額の紙幣を出しても問題ないので、こういったところでお金をくずして、小銭を常に財布に入れておくべき。(トイレやチップのため。)

※高額紙幣については万が一のために100ユーロが一枚もあれば十分。使い勝手が良かったのは10ユーロと20ユーロ、これらはあらかじめ日本で多めに両替しておきたかった。50ユーロは現地でくずすのに難儀した。

【レストラン】
(1)注文
 入ってすぐのところで受付け、基本的には席まで案内してくれたスタッフもしくはメニューを持ってきてくれたスタッフが会計まで専属担当なので、顔を(ガン見して)覚える。(そのスタッフさん以外を呼んでも基本的には来てくれないので。しかし、店の状況によっては料理を持ってくるのは別スタッフということも。それでも、料理がすべてそろったら専属担当が戻ってきて「ご注文の品はお揃いですか?」的なことを確認しにくることが多い。)
 料理は、出てくる量がとてつもなく多いため、よほどの空腹でもない限り、2人なら1人がサラダ、もう1人がソーセージといった感じで十分。サラダにもチキンやポテトが乗ってくるし、ソーセージにも必ず「何か」が添えられている。店によっては頼んでもいないのにポテトや素マカロニが出てきたりする。これにビール(基本単位は500ml)をあわせればたいてい満腹のはず。
(2)会計 
 支払いは席で行うのでスタッフを呼ぶ。いわゆる観光客向けの店だとここで「キャッシュ・オンリー」と言い放たれることが多いはず。要するに「チップ」を要求されているので、1割程度を上乗せして支払う。23.60ユーロであれば25ユーロ、32.90ユーロであれば35ユーロといったところか。
 クレジットカードでの支払いがOKのところはこのあたり気楽で、出された端末に自分でカードを挿入し、スタッフが「ピンコード」と言ったら暗証番号4桁を入力、以上。(とはいえクレカ払いでも、チップ相当分の「サービス料」が上乗せされたものが請求金額となっていることはままある。そのあたり丁寧なスタッフはそのことも説明してくれる。)
 場合によっては、現金でチップ分を含めて支払って、お釣りがそっくりそのまま返されることがあるが、これはそのお釣りから再びチップ分を支払うべきなのだろう。

【鉄道】
 ドイツ国内の移動はドイツ鉄道(DB)が基本で、スマホアプリ(DB Navigator)で乗換案内や遅延情報は正確迅速に入手できる。
 駅では入口の電子表示板はもちろんのこと、それぞれのホームごとにも電子表示板がある。ホーム自体がA~F等アルファベットで待機エリアが区分されており、○番線のA~Bエリアには1等車が停車、C~Eエリアには2等車が停車する等の情報はそのホームの電子表示板に示されている。
 いわゆる特急車両(ICEやIC)は全席指定席だが、予約が入っていなければ自由席、見分けるにはそれぞれの座席の荷物棚(もしくは座席の通路寄り部分)の電子表示板を確認する。発着駅(Frankfurt Hbh~Berlin Hbh等)が表示されていれば「指定席」、表示されていなければ「自由席」。現地が長期休暇シーズン等でなければ自由席で全く問題ない。特急車両以外はいわゆる普通の電車なので全席自由。(ちなみにトイレWCはどんな車両にもあるので安心。)

【ホテル】
 チェックイン時に記入する内容は結局、世界中どこでも一緒なので、書くべき情報を書ききってしまえば特に問題なし。
 その後、10~15ユーロ程度をクレジットカードで支払いをするように言われることがある。(宿泊料の事前支払の有無に関わらず。)
 いわゆるデポジットで、部屋のミニバーを利用しなければチェックアウト時にその金額は全額キャンセルしてもらえる。そのことを「ギャランティ」と言ったり「チャージ」と言ったり、あるいははっきり「デポジット」と言ってくれたりと、表現はホテルによりけりなのだが、とにかく一時的に前金を払わなければならないことがわりとある。標準的なクラスのホテルであれば基本的にはこのデポジット制が導入されているとみていいだろう。
 
※チェーンだと「Intercity Hotel」がコスパ良し。いわゆるビジホ相当で中央駅から徒歩すぐに立地していることがほとんど。トイレシャワーはしっかりしてるし、部屋中コンセントだらけ。部屋に置いてある500mlの水も無料。

【おまけ:入国審査】
 個人旅行であれば、入国審査のときに滞在目的と滞在期間、滞在先を自分で言わなければならない(もちろん英語でOK)が、ついでに予約済ホテルのバウチャーの提示を求められることがある。(かばんの奥にしまいこんでいると出すのに慌てる。)


A14 地球の歩き方 ドイツ 2019~2020

A14 地球の歩き方 ドイツ 2019~2020

追想:中欧を旅して(前半)

 去年はプラハやウィーンへ、今年はライプツィヒドレスデンミュンヘン等のドイツ諸都市へ行くことができた。

【2018】プラハ&ウィーン

1.スキポール空港とタバコ

 プラハへの乗り継ぎでアムステルダムスキポール空港に降り立ったのが初海外となった。
 空港施設の余りの広さに圧倒されたことは言うまでもない。乗継便までに相当の時間があったから少しだけ屋外に出たが、世界的な禁煙の潮流などなんのその、玄関前広場で堂々とタバコをふかしている人々には驚かされた。ヨーロッパでは禁煙や分煙が相当進んでいるイメージを抱いていたが、実際にはそうでもなく、むしろ屋外喫煙についてはかなり寛容なようだった。
 彼らのタバコの匂いは、まさにヨーロッパのそれだった。いわゆる洋モクの香りだった。ここはオランダ、アムステルダム。海外に来ていることを実感した瞬間だった。

2.プラハ到着

 プラハに到着したのは23時前だった。送迎タクシーに乗って市街地へ向かう車窓から見える風景すべてが異国を感じさせた。右側通行するクルマと路面電車、街灯に染まる建物、ライトアップされたプラハ城。まるで映画でも見ているかのようだった。
 今から思えばプラハのホテルが一番良かったかもしれない。大通りから少しだけ路地を入ったところにあって、とても静かで居心地のよいホテルだった。どうやらもともとはアパートメントだったようで、過ごしやすさもうなずける。朝食で食べたチーズの美味しさも忘れられない。乳が、牛が違う。草が、水が、気候が違う。そんなことを痛烈に感じたものだった。

3.プラハの街で

 観光都市とあって街は観光客だらけだった。スタバやマクドH&Mは日本同様、大賑わい。日本ではもう見かけなくなったタバコ屋は街の至るところで見かけた。
 見どころはやはり旧市街ユダヤ人地区、モルダウ川、そしてプラハ城。お城の聖ヴィート大聖堂には、心底圧倒された。
 移動にはメトロが便利だったが、これが実に印象的で、施設外観やエスカレーター、券売機等のつくりがいわゆる「旧国鉄」感にあふれていたのだ。また、プラハでは、道端へのゴミのポイ捨てが日本では考えられないほど多く見られて面白かった。ここはプラハ、旧社会主義圏ということをうっすら感じたのだった。
 ちなみにアクティビティとしてはモルダウ川クルーズがおすすめ。所要時間は小一時間ほどで、足を休めて涼みながら旧市街の景色や軽食も楽しめる。

4.鉄道の旅

 プラハからウィーンへは電車での移動だったが、車窓から見える景色はまさにヨーロッパのそれだった。
 高い山はほとんどなく、延々と広がる平野と丘陵地帯。その田園風景のさなかに、現れては通り過ぎていく茶色の屋根の田舎町。そして唯一、空に高く伸びる教会の塔。これもまた映画で見た景色そのものだった。

5.近代都市ウィーン

 直前のプラハと比べて、ウィーンはあまりにも整然としていて小綺麗で、まさに近代都市の典型だった。ゴミのポイ捨てはほぼ見かけなかった。
 一方の雰囲気はというと、まさに京都。住むところではなさそうだったし、また田舎者には特に厳しい街だった。それでも、楽友協会の見学ツアーは音楽愛好家なら見逃せない。
 ホテルはたまたまコンツェルトハウスの近くで、ついでにコンツェルトハウスでの演奏会にも行くことができた。1900年代初頭のホールはまさにその時代を感じさせるつくりで、ここで聞いたマーラーの第3交響曲(これもまさに同時代)は忘れられない。

6.巡礼の旅

 旅のクライマックスは、聖フローリアン修道院教会ブルックナーファンの聖地であるが、これについてはまた別の機会にしたいと思う。

15 地球の歩き方 aruco チェコ 2019~2020 (地球の歩き方aruco)

15 地球の歩き方 aruco チェコ 2019~2020 (地球の歩き方aruco)

シュニットガー・オルガンで聞くバッハ

 BCJ鈴木雅明がグローニンゲン(オランダ)のマルティン教会でシュニットガー*1&ヒンツ*2製作のオルガン*3を演奏した録音である。

Bach, J.S.: Organ Works2015

Bach, J.S.: Organ Works2015

 《パストラーレBWV590》*4や《コラール・パルティータBWV767》、《カノン風変奏曲BWV769》では多彩で柔和な音色をじっくりと味わうことができ、《幻想曲ト長調(Piece d'orgue)BWV572》や《前奏曲とフーガホ短調BWV548》では輝かしく、また瑞々しく、それでいて透明感抜群のオルガンサウンドを堪能できる。艶やかであり、また肌理細やかな音色が印象的なシュニットガーオルガンの魅力を鈴木雅明が存分に引き出した秀作である。

*1:アルプ=シュニットガーとその息子フランツ・カスパール

*2:アルベルトゥス・アントーニ=ヒンツ

*3:ペダル用には32フィート(!)のパイプを備える大オルガン

*4:3曲目は映画『ルパン三世カリオストロの城』で劇中BGMとして使用された

イザベル=ファウストによる21世紀のバッハ演奏 最前線

 イザベル=ファウストが(いわゆる)古楽奏法的アプローチを全面的に取りいれ世に送りだした逸品である。彼女特有の美音はそのままに、歌い、語る音楽である。不自然に聞こえるところは1つもない。しかし、それだけではない。

 バッハがこのソナタ*1に求めたチェンバロ通奏低音としてのそれではなく、オブリガートとして、ソロヴァイオリンと対等にわたりあうチェンバロである。おそらくファウストはそのことを他の誰よりも十分に理解した上でこの録音に臨んでいた(はずである)。
 ヴァイオリンが常に音楽を主導するというのではなく、ヴァイオリンとチェンバロがお互いに寄り添いながら音楽が展開していく。ヴァイオリンとチェンバロの語らいは実に濃密であり、名手同士の絶妙の掛け合いは余すところなく繰り広げられている。単なるヴァイオリンソナタではなく、ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ、2名のソロ奏者のためのソナタであるということを改めて訴えかける演奏がそこにはある。音量バランスも巧妙に調整されており、各声部は明瞭に聞きとれる。
 ピリオド奏法か、それともモダン奏法か。ファウストはこの録音を通じて、そのような問いがいかに不毛であるかを如実に示しているように思えてならない。

*1:"6 Sonaten fü̈r Violine und Cembalo"

中也と夏

 生前発表詩篇の1つである。

   渓流


渓流で冷やされたビールは、
青春のやうに悲しかつた。
峰を仰いで僕は、
泣き入るように飲んだ。


ビショビショに濡れて、とれさうになつてゐるレッテルも、
青春のやうに悲しかつた。
しかしみんなは、「実にいい」とばかり云つた。
僕も実は、さう云つたのだが。


湿つた苔も泡立つ水も、
日蔭も岩も悲しかつた。
やがてみんなは飲む手をやめた。
ビールはまだ、渓流の中で冷やされてゐた。


水を透かして瓶の肌へをみてゐると、
僕はもう、此の上歩きたいなぞとは思はなかつた。
独り失敬して、宿に行つて、
女中と話をした。


             (一九三七・七・一五)
         「都新聞」一九三七年七月一八日

 もう一つ、『在りし日の歌』より。

   残暑


畳の上に、寝ころばう、
蠅はブンブン 唸つてる
畳ももはや 黄色くなつたと
今朝がた 誰かが云つてゐたつけ


それやこれやと とりとめもなく
僕の頭に 記憶は浮かび
浮かぶまゝに 浮かべてゐるうち
いつしか 僕は眠つてゐたのだ


覚めたのは 夕方ちかく
またかなかなは 啼いてたけれど
樹々の梢は 陽を受けてたけど、
僕は庭木に 打水やつた


   打水が、樹々の下枝の葉の尖に
   光つてゐるのをいつまでも、僕は見てゐた

中原中也詩集 (岩波文庫)

中原中也詩集 (岩波文庫)