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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

今年の抱負にかえて

 ブルックナー交響曲第9番スケルツォのトリオ部分は、実は2回書き直されて現在知られている形になっている。
 このトリオの全容すべてを世界初録音したものが次である。

ブルックナー・アンノウン ~ リカルド・ルナにより室内管弦楽用編曲および補筆完成された作品集 (Bruckner Unknown / Ricardo Luna) [輸入盤]

ブルックナー・アンノウン ~ リカルド・ルナにより室内管弦楽用編曲および補筆完成された作品集 (Bruckner Unknown / Ricardo Luna) [輸入盤]

 交響曲第8番を完成させ(1887年)、改訂作業と並行しながらそのまま続けて第9番にとりかかった1889年時点でのトリオ、既存の交響曲の改訂がひと段落した後に書き直した1893年時点でのトリオ、そして現在一般的に演奏録音される1894年時点でのトリオ、この3つのバージョンを聞くことができるという超マニアックなCDである。
 1889年トリオではヴィオラ・ソロが冒頭の主要主題を歌う。マーラーに通ずるような世紀末的な甘美な響きがそこにはある。
 その後の1893年および1894年での書き直しによって姿を消してしまうことになるヴィオラ・ソロだが、改訂の波を経た作曲者の目にはいかに映ったのか。


 もしも、交響曲第9番が最終楽章まで完全な形で完成していたとすれば、それは第8番を凌駕する最高傑作であったはずに違いないと思えてならない。
 第9番の最終楽章はスケッチという形で今日知られるだけだが、ソナタ形式における各主題はきちんと聞き分けられる状態であり、その第3主題は金管による圧倒的なコラール的賛歌である。第3楽章における第2主題への移行句(ホルンとワーグナー・チューバによって奏される下降音階的な経過句)の発展的再現[最終解決]とも言え、最終楽章におけるクライマックスを形成する。*1
 もしも、ブルックナーの第九が作曲者によって最後まで完成されていれば。その尽きせぬ思いを抱えながら、私は第8交響曲(初稿)をブルックナーの最終テーゼとして読む。

*1:ちなみに、最終楽章冒頭のニ短調の第1主題は複付点つきの強烈な下降音階が主要動機となっており、これはすなわちベートーヴェンの第九の冒頭への完全なるオマージュである。ハンスリックは、ウィーンに出てきたブルックナー交響曲について「ベートーヴェンワーグナー風に脚色し焼き直した(醜悪な)見かけだおしに過ぎないもの」として批判を展開するが、むしろ私はその特色(それがある一面にすぎないとしても)については肯定的に評価すべきだと考えている。