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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

ブル8談義

 ベートーヴェンの第五そして第九交響曲の冒頭楽章の第1主題部における動機反復プロセスのスタイルを正統に継承した作曲家、それはまさにアントン・ブルックナーである。

ブルックナー:交響曲第8番(第1稿, 1887年ノーヴァク版)/交響曲第0番(ティントナー)

ブルックナー:交響曲第8番(第1稿, 1887年ノーヴァク版)/交響曲第0番(ティントナー)

 執拗な動機反復はこの第8番でも極めて印象的である。ティントナーはゆったりとした、しかし自然な呼吸のうちに音楽を進めていく。
 第3楽章*1の第1主題の伴奏リズムは、ワーグナーの≪トリスタン≫「トリスタンとイゾルデの愛の二重唱」の伴奏リズムと極めて似ているとの指摘を拝見したが、それに付け加えるなら、第1楽章の第2主題の【2連+3連符】のリズム動機はまさに「イゾルデの愛の死」で登場するリズム動機と完全に一致する。しかもいずれもその動機を執拗に反復する。
 ベートーヴェン系譜として自らを位置づけたかったはずのブルックナーが、不可避的に影響を受けざるをえなかった存在こそワーグナー*2なのであった。

*1:1887年初稿においては [1]呈示部、[2]展開・再現部①、[3]展開・再現部② の3つの部分はそれぞれほぼ100小節ずつである。このような三分割の構成は他でも見られる。私がブルックナー交響曲の初稿にこだわるのは、ここに理由がある。

*2:ブルックナーバイロイトでの≪パルジファル≫に4度も足を運んでいる。その影響は1880年代以降の作品に広範囲に影響を与えているように思える。直接的な引用などは見当たらないが、和声的あるいはリズム的にその関連性をうかがわせる箇所は点在する。