全編を通じてメロディック、リズミカル、そして何より「長すぎ」ない。ブルックナーの交響曲にそれを求めるのは酷な話だろうか。ところが、なかなか実演に巡りあえないこの第6番イ長調交響曲はそれらを満たす、極めて聞きやすい交響曲のうちの1つである。
- アーティスト: ヴァント(ギュンター),ブルックナー,ケルン放送交響楽団
- 出版社/メーカー: BMG JAPAN
- 発売日: 2002/03/06
- メディア: CD
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第5交響曲、弦楽五重奏曲の作曲そして第4交響曲の改訂とほぼ同時期の作品であり、またそれらとの関連性も極めて高い。
1869年にウィーンに移住したブルックナーは、後に自ら≪無効≫としたニ短調交響曲*1を出発点として、第2番、第3番、第4番、第5番と次々に新作交響曲を書きあげていく。しかし、帝都の聴衆には一向に受けいれられない。そうした状況下でブルックナーが移住10年、心機一転書き進めていったのがこの交響曲第6番である。ブルックナーの転換点となった作品とも呼べるだろう。
独自のソナタ形式の構成理念と聴衆の聞きやすさとをうまく調停し、優れたまとまりのうちに完成されたこの曲は、今に至るまでほとんど演奏されてこなかったが、なぜ第7番ホ長調で大成功を収め得たかという問いへのヒントは、この曲に隠されている。
改訂作業や弦楽五重奏曲・第6番・第7番・≪テ・デウム≫の作曲を通じてたどり着いた境地は、ついに1887年の交響曲第8番ハ短調への道を準備することとなる。