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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

プロデュースマイスター・ワーグナー

 プロイセン=オーストリア戦争や北ドイツ連邦の成立など、ドイツ国民国家の成立プロセスと並行した時代に書かれ、そして初演された祝祭的な楽劇である。*1

 20世紀の歴史を踏まえたとき、《マイスタージンガー》という作品への向き合い方は一筋縄ではいかないものがある。*2
 ワーグナーの描き方、見せ方の巧みさにはほとほと驚かされるばかりであり、彼が演出するドイツ・ナショナリズムの栄光とその擁護者・守護者への賞賛は実に印象的で雄弁である。であるからこそ、極めて危険である。
 こういった作品にこそ多様で現代的な演出が求められるともいえよう。様々の解釈*3に耐えうる圧倒的な音楽の力が満ちみちているのだから。《マイスタージンガー》はまさにドイツ語のうた[Gesang]の宝庫。

*1:初演から3年後の1871年にはドイツ帝国が成立する。

*2:ナチスドイツのプロパガンダとして、ワーグナー作品は常にその筆頭であった。

*3:私個人的にはやはり、輪廻転生や罪と罰、救済といったテーマを扱う『パルジファル』の多様な解釈と演出にも大いに興味関心がある。