ブルックナーがウィーンへ移住して10年、まったく評価されないなかただひたすら交響曲を書き続けていた頃、不思議な縁で彼は弦楽五重奏曲を作曲することになる。
- アーティスト: ウィーン弦楽五重奏団,ブルックナー,クリスチャン(トーマス),ベヒター(ペーター),リー(トビアス),オクセンホーファー(ハンス・ペーター),ヘル(ミヒャエル)
- 出版社/メーカー: カメラータ・トウキョウ
- 発売日: 1996/05/21
- メディア: CD
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第1および第4楽章において、提示部・展開部・再現部の区切りや移行区間は巧みにぼかされている。自作の交響曲がいずれも不評とあって、ブルックナーは自己批判の時期にあった。彼は既存のソナタ形式を巧妙にアレンジする形での新たな形式(かたち)を求めていた。
幸いにもこの弦楽五重奏曲の完成から数年のうちに、第4交響曲(第二稿)はウィーンに来てからの初めての成功をおさめ、ほどなくしてあのホ長調の第7交響曲が世に出ることになる。
この弦楽五重奏曲の第3楽章アダージョは変ト長調(♭♭♭♭♭♭)の幻想的な世界である。第2主題部はミサ曲におけるテノールソロを彷彿とさせるような神秘的な瞬間である。
実演になかなか触れることのない、しかし極上の室内楽作品である。