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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻(クリストフ・ルセ)

 24の前奏曲とフーガをバランスよく1つの体系にまとめあげた稀有な演奏である。

J.S.BACH/ DAS WOHLTEMPERIERTE KLAVIER

J.S.BACH/ DAS WOHLTEMPERIERTE KLAVIER


 24曲の始まりから終わりまで、まったく途切れることがない。各曲の特徴や持ち味はもちろん感じさせながらも、決して聞き疲れることがなく、1つの大きな流れに沿って調性の森を歩んでいく。ハ長調からロ短調まで、これほどまでに一貫した音楽の流れが聞こえてくるのは、奏者の妙技であろうか。先に第2巻を録音したというのも、やはりこの第1巻の根底にある音楽の流れの一貫性が最大の難所であったからであろうか。
 ルッカース*1チェンバロ*2の響きも格別のものである。気になる雑味は一切なく、清廉高貴、どこまでも瑞々しい弦の響きに魅了される。

*1:Joannes Ruckers 1578-1642 アントワープの製作家

*2:2009年にAlain Anselmによって1706年時点の状態に可能な限りレストアされたものだということである(CDブックレットより)