吉田寛さんの最近の著書である『音楽の国ドイツの系譜学』最終巻を読みながら、18世紀から19世紀への世紀転換期のうねりにうなりつつ、ベートーヴェンを聞きなおしている。
ナポレオンの大陸支配による神聖ローマ帝国の解体と成長過程にあったプロイセンの挫折とが当時のドイツ語圏の音楽史叙述に大いに影響を与えた以上、いやおうなしに西洋史の復習にも迫られる(どうせならとおもってギリシャ古典時代からドイツ帝国の成立までざっと概観した)わけだが、科目としての西洋史の知識が生きたものになってくるのは非常に喜ばしい。
そうとはいいつつも1750~1850年あたり、音楽はもちろん好んで聞くもののただあまり執着はしない。思想史にしてもカントを確認するくらいであとはほとんど素通り状態である。(ヘーゲルおよび同時代の歴史哲学になじめないのが根底にある。もっというと前世期に西欧を席巻した啓蒙思想にも距離感をおぼえる。)このあたりは性分の問題なのだろう。
そんななか、改めてふとベートーヴェンのヴァイオリン協奏曲を聞いた。
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しかしなかでもベートーヴェンのコンチェルト(1806年)は、しっかりとした楽曲構成/和声構築そのものが音楽のダイナミズムを描きだしていて、パワフルで印象的なモチーフのもとで雄大に歌うヴァイオリンに爽快な心持ちになる。
彼の晩年のあの超越的な世界に至る前の、現世的で開放的な≪英雄≫の時代の音楽である。