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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

楽譜・楽器・人・社会からみる西洋音楽史

 たとえばカール・ダールハウスが『Grundlagen der Musikgeschichte(音楽史の基礎)』(1977)で述べているように、名曲(古典)および天才作曲家の列挙が音楽の歴史を述べるときの最善手とは限らない。19世紀以来の伝統的な音楽史教養主義ナショナリズムカントの天才論から大きな影響を受けている。20世紀に入るとそういった旧来の歴史記述を相対化し、より多角的に音楽史をみていく流れが加速する。

西洋音楽史再入門: 4つの視点で読み解く音楽と社会

西洋音楽史再入門: 4つの視点で読み解く音楽と社会

 本書は名作名曲の音楽史ではない。最新の音楽学および音楽社会史の研究成果を踏まえた多面的な音楽史のいわば事典である。項目はまさに網羅的で多岐にわたり、極めて扱いやすい。

第1章 楽譜と音楽史
 第1節 ネウマ譜の時代
 第2節 多声化と自由リズム
 第3節 楽譜の印刷と出版
 第4節 タブラチュアの意義
 第5節 近代五線記譜法の誕生と発展
 第6節 楽譜出版の隆盛
 第7節 楽譜に書かれること/書かれないこと
 第8節 現代の楽譜


第2章 楽器と音楽史
 第1節 キリスト教と楽器
 第2節 中世・ルネサンスの楽器
 第3節 器楽の確立
 第4節 バロック期の器楽(1)―― 鍵盤楽器の活躍
 第5節 バロック期の器楽(2)―― オペラと楽器
 第6節 器楽の世紀(1)―― ピアノの時代
 第7節 器楽の世紀(2)―― オーケストラの拡大と器楽の抽象的表現
 第8節 20世紀の器楽


第3章 人と音楽史
 第1節 聖職者は音楽家か
 第2節 騎士歌謡
 第3節 町楽師の登場と巷の音楽
 第4節 宮廷楽団と宮廷楽長
 第5節 自立への道
 第6節 公開演奏会の時代
 第7節 ディレッタントの盛衰
 第8節 女性音楽家の登場
 第9節 音楽鑑賞の変遷
 第10節 人と音楽の関わり


第4章 音楽と社会
 第1節 教会の音楽
 第2節 宮廷の音楽
 第3節 市井の音楽
 第4節 劇場とコンサート・ホール
 第5節 サロン音楽と家庭音楽、市民の音楽
 第6節 録音・放送と音楽

 以上、目次からの抜粋である。記述はかなり中立的で基本書としての性質を併せもつとも言える。ふと調べたくなったときに重宝する。