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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

読書録:超約 ヨーロッパの歴史

 原題は ”The Shortest History of Europe” である。タイトルの「超約」という造語が誤解を招きそうではあるが、中身はまさに王道中の王道であり、あえて私的に訳すとするなら『ヨーロッパのあらまし ハースト教授の西洋史講座』などはいかがだろうか。

超約 ヨーロッパの歴史

超約 ヨーロッパの歴史

 古代ギリシャから第2次世界大戦まで西洋史を極めてコンパクトに、かつ深みと笑いをもって叙述するその語り口には驚嘆しきり。オーストラリアのラ・トローブ大学にながらく勤務していた著者の授業がいかにエキサイティングなものであったかは容易に見当がつくというものである。
 本文中の写真や図版、解説用の図式は、単に理解を助けるというだけでなく、知的にも面白いものが多数用意されている。それだけではない。ハースト教授の語りは絵画や彫刻、果ては代数や幾何学天文学にまで及ぶ。「こんな歴史の授業を受けたかった!」と思わせるには十分すぎるほどの中身の濃さ。
 
 センター世界史は9割が当たり前だったという人にも、世界史資料集を眺めているのが好きだったという人にも、そして世界史を学びなおしたいという人にも打ってつけの1冊、王道にして明瞭簡潔かつ知的好奇心をくすぐる良書の登場である。