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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

ヘルダーリンと自然概念

 ヘルダーリンの詩作の重要なテーマの1つである自然についての簡潔な解説である。

ヘルダーリンにとっては、自然は所与の外界以上のものであり、彼が生き呼吸する生活圏であり、それ自身がひとつの生きているものであり、彼を愛し支え包括するものであり、そしてまさしくそれゆえにこそ、あらゆる疑念を超えてじかに体験される現実的なものである。いやそれどころか、彼にとって自然は、神的なものであり、神性に満たされたものであり、人間やその卑小で影の薄い自我よりもかぎりなく偉大である。

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彼はこの体験のもっとも純粋な表現を古代人の神話に見いだす。その神話は、自然の秘密めいた活動に生命を吹きこみ、これを崇拝するのである。彼の自然感情そのものが神話的である。

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(・・・)ヘルダーリンの哲学的な詩的夢想の趣旨は、善の価値がどれほど高い位置にあろうとも、それと並んで、またそれとは独立に、自然的なものの領域もまたあり、この自然的なものも根源的で放棄しえない固有価値の担い手であるというところにある(・・・)。自然は道徳に劣るものではない。自然のうちにも神々がおり、崇拝に値するのである。

ドイツ観念論の哲学〈第1部〉フィヒテ、シェリング、ロマン主義

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