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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

フランスのガルニエ・オルガンで聞くバッハ

 フランス東部ブルゴーニュ地方、ドイツとスイスの国境にほど近いルフォールの町にはマルク=ガルニエ1984年に製作したオルガンがある。

 フランス風のバッハ・オルガン音楽が容易に想像された。
 しかし、曲目にフランス系ナンバーは1つもなく、むしろ通好みの、これぞドイツ・バロックあるいはドイツ・ルター派音楽とでも呼べるような作品ばかりが並んでいた。
 CDケースを開け、ブックレットを裏返すと、ベルフォール聖ジャン教会のガルニエ・オルガンのファサードの写真、そこに写っていたのは、なんと「北ドイツ」のオルガンだった。長大な低音系パイプ群が双塔のように左右に据えられ、メインパイプ群以外に独立したパイプ群がバルコニー手前にも配された、北ドイツのオルガンに典型的なフォルム。合点した。そういうことか。
 演奏一聴、期待を裏切らない正真正銘の北ドイツ・オルガンだった。瑞々しく輝かしく、それでいて透き通るような凛とした音色、低音から高音まではっきりとして聞き取りやすい明瞭な発音。
 このオルガンは、フランスにあるドイツのオルガンだったのだ。