趣味愉楽 詩酒音楽

人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

読書録:アウグスティヌス 「心」の哲学者

 教父アウグスティヌス(354-430)の生涯と思索を生き生きと伝える良書である。

 キリスト教に目覚め、回心するまでのアウグスティヌスの内面や私生活は、非常にドラマティックである。
 知的好奇心の旺盛な文学青年であり、性愛と喪失にまみれた、人間味あふれる情熱的な若者は、三十二、三歳を転機に、キリスト教信仰の理論的研究(理論の精緻化)に没頭するようになる。
 
 それまで徹底的に肉欲にまみれ、当時流行していたマニ教懐疑論にさえ与していたアウグスティヌスは、どこにでもいる、いわば普通の人間である。だから、彼の苦悩は、我々の苦悩そのものなのである。
 そんな彼の回心とその後の歩みは、まさに驚異的としか言いようがない。
 
 アウグスティヌスの人生を追体験させてくれる本書は、初期キリスト教中世神学に興味のある人のみならず、西洋偉人伝に関心がある人にもうってつけの良書である。