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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

読書録:バッハ『ゴルトベルク変奏曲』世界・音楽・メディア

 一つの音楽作品を通じて、作曲家や音楽史、ジャンルや作曲技法を多角的に論ずる、音楽エッセイのお手本のような良書。

 これはバッハというよりゴルトベルク変奏曲が好きな人向けの一冊かもしれない。

 ある一曲からどれだけの論点を引き出せるかということで言えば、本書はまさにありとあらゆる音楽的なテーマについて触れている。
 バッハの人生も、17-18世紀の音楽の理論や文化も、20世紀におけるさまざまの演奏、録音、アレンジや編曲も、いずれもひとしくゴルトベルク変奏曲の世界観を構成している。一つの音楽作品は、楽音や楽譜以外の多数の文化的思想的歴史的な背景を伴いながら、ある一つの音楽的な世界そのものを呈示しているとさえ言える。

 大学のゼミナールを彷彿とさせる口語調の記述が印象的な本書は、ゴルトベルク変奏曲という音楽世界、あるいは音楽文化論へのいざないでもある。