趣味愉楽 詩酒音楽

人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

ヘッセの詩より『炎』

 誰しも、心ざわつく日々がある。
 そんな時、ヘルマン=ヘッセの詩は、よき理解者であり、道しるべである。
 『炎』と題された短い詩は、私たちに優しく前向きに語りかけてくる。

おまえがつまらぬものの間を踊って行こうと、
おまえの心が憂いに苦しみ傷つこうと、
おまえは日ごとに新しく味わうだろう、
生の炎がおまえの中に燃えているという奇跡を。
(・・・)
だが、陰気な薄明を通ずる道を行くもの、
日々の煩いにたんのうし
生の炎をついぞ感じないものだけは、
その日々を空しく失うのだ。

 大学浪人時代にヘッセの詩に出くわしてから、もう長い年月が流れた。
 いつ読んでも、詩人は温かく迎え入れてくれる。

 『困難な時期にある友だちたちに』という詩は、達観している。

日の輝きと暴風雨とは
同じ空の違った表情に過ぎない。

 長いトンネルも、抜けてみれば、空は明るく、トンネルの長さをもはや思い出すこともない。