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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

合唱曲と交響曲の道

 ブルックナーの合唱曲、それも世俗的歌詞に基づく合唱曲はほとんど知られていない。

Maennerchoere

Maennerchoere

Bruckner: Men's Choirs Vol 2

Bruckner: Men's Choirs Vol 2

 トーマス・ケルプルとアンサンブル・リンツ、そしてブルックナー・フェスのための合唱団の果たした功績は計り知れない。
 協奏曲もオペラもいっさい書かず、ブルックナーは合唱曲を量産していた。教会のため、そして当時数多く存在した男声合唱*1のため。交響曲作曲家として大成するよりずっと前からブルックナーは第1級の「オルガニスト」であり「合唱曲作曲家」であった。
 この2つの録音を通じてブルックナーの作曲活動の全容にようやく光が当たるようになったと言えるだろう。作曲家として独立した40代以降、そのほとんどの作品は合唱曲と交響曲なのであるから。

*1:ナポレオン時代以降、急速に広まったドイツ・ナショナリズムの文化的表象は男性合唱団であった。19世紀のドイツにおいて、政治経済面では関税同盟そしてプロイセンが統一ドイツへの道を準備する一方、文化面において市民は合唱クラブに所属し、統一された強き祖国ドイツへの憧憬を歌った。