どのナンバーも魅力的だが、最もフランス風なのは、第四番変ホ長調だろうか。
バッハの三大組曲といえば、豪華でエネルギッシュなイギリス組曲、壮大な規模感で舞曲全種盛りのパルティータ、そして秘蔵のフランス組曲。
インヴェンションや平均律とともに、舞曲様式の修得を目的に、子弟のために個人的に(家庭的に)編まれた英仏組曲は、それぞれ実に対照的である。
イギリス組曲が、構成面では保守的でありながら和声的には前衛的であったりと、かなりエッジのきいた作品(30歳前後から書き始められた可能性が高い)であるのに対し、フランス組曲(おおむね40歳前後か)は、端的に典雅である。気品に富み、実に温和で、それでいて間延びすることはなく、舞曲の魅力がコンパクトに凝縮されている。学習者にとっても、鑑賞者にとっても、そして後代のピアノ奏者にとっても、音楽の喜びと楽しさをこのうえなく実感させてくれる、バッハ鍵盤音楽の白眉である。