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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

2020-01-01から1年間の記事一覧

読書録:三つの内なる貧しさ(エックハルト)前編

中世の神学者でありドイツ神秘主義の源流とも目されるエックハルト(1260-1328?)の有名な説話《三つの内なる貧しさ》をみていきたい。テーマはこの聖句である。 "Beati pauperes spiritu, quoniam ipsorum est regnum caelorum."(羅) + + + "Happy are th…

読書録:貧しさ(ハイデガー)

1945年6月27日、ハイデガーは《貧しさ》と題された短い講演を行った。この講演への導きとなるのは、ドイツロマン主義の詩人ヘルダーリンの次の言葉である。 我々においては、すべてが精神的なものに集中する。 我々は豊かにならんがために貧しくなった。 ハ…

読書録:ハイデガーの超政治 ナチズムとの対決/存在・技術・国家への問い

難解と言われるハイデガーをどのように読むべきか。その指針となる極めて重要な著作である。ハイデガーの超-政治――ナチズムとの対決/存在・技術・国家への問い作者:轟 孝夫発売日: 2020/02/28メディア: 単行本 本書のテーマは、ハイデガーの提起する「存在の…

読書録:知覚の哲学(メルロ=ポンティ)

メルロ=ポンティのラジオ講演(1948)を全7章にまとめ上げた一冊。第6章は「藝術と知覚的世界」と名付けられ、メルロ=ポンティの芸術論の核心が簡潔に述べられている。知覚の哲学: ラジオ講演1948年 (ちくま学芸文庫)作者:モーリス メルロ=ポンティ発…

読書録:国立西洋美術館 名画の見かた

東京上野の国立西洋美術館へ行ったことがある人にも、行ったことがない人にも、おすすめの一冊。国立西洋美術館 名画の見かた作者:渡辺 晋輔,陳岡 めぐみ発売日: 2020/01/24メディア: 単行本 西洋画の解説本だが、まるで常設展の学芸員ツアーに参加している…

読書録:カントの批判哲学

ドゥルーズによるカントの批判哲学の読み直し。翻訳と解説は國分功一郎である。違和感のない日本語訳、そして非常にわかりやすく有用な解説が読者の理解を大いに助ける。カントの批判哲学 (ちくま学芸文庫)作者:ジル ドゥルーズ発売日: 2008/01/09メディア: …

読書録:自由の哲学者カント カント哲学入門「連続講義」

自由という視点からみるカント入門書である。自由の哲学者カント~カント哲学入門「連続講義」~作者:中山 元発売日: 2014/04/18メディア: Kindle版 カントの批判哲学を中心に、宗教哲学や政治哲学も含めて、カントのエッセンスが平易な言葉で次々に明らかに…

構想力とはなにか

カントのいう構想力について詳しくみていきたい。縮刷版 カント事典発売日: 2014/05/29メディア: 単行本 想像力ないし構想力[Einbildungskraft]について、2014年に弘文堂より刊行された『カント事典』によれば次のとおりである。 構想力はカントによれば、「…

読書録:判断と崇高 カント美学のポリティクス

132ページのこの箇所を読んで初めて、カントの崇高論の奥深さに気づいた。判断と崇高―カント美学のポリティクス (新潟大学人文学部研究叢書 (5))作者:宮崎 裕助メディア: 単行本 美と崇高の違いについて述べた『判断力批判』の一節に戻ろう。「自然の美しい…

バッハ作品おすすめ厳選記

2020年7月時点で一度厳選したものに修正を加え、ジャンル別にリスト化してみた。とにかく曲の数や長さを絞るということに専念した。*1 管弦楽作品 (1)無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 第5曲 シャコンヌ (2)ブランデンブルク協奏曲 第5番…

読書録:世界哲学史8 ー 現代 グローバル時代の知

第3章(千葉雅也「ポストモダン、あるいはポスト構造主義の論理と倫理」)だけでも読めればと思って手に取った一冊だが、実際、手っ取り早くポストモダン思想について概観するにはうってつけ。世界哲学史8 ――現代 グローバル時代の知 (ちくま新書)発売日: 20…

読書録:故郷(太宰治)

太宰治の『故郷』*1は、原稿用紙30枚くらいの短編の私小説である。 筋書きは非常に明快である。東京で妻子と暮らしている私は母危篤の知らせを受け、長らくお世話になっている恩人の助けを借りて青森の実家へと帰省する。私は勘当の身であるがゆえに気まずい…

回想:ザンクト・フローリアン修道院への旅

アントン・ブルックナーのファンであればぜひ行きたい場所の1つ、ザンクト・フローリアン修道院。ウィーンからの日帰り旅をまとめてみる。*1もちろん、基本的な情報は『地球の歩き方』に載っているし、ネットで「ザンクトフローリアン」と検索すれば旅ブロ…

サラリーマン・バッハ

ブルックナーの生涯は実に淡々としたものだが、同じく教会音楽家であるバッハの生涯も大したドラマはない。 18歳でヴァイマルの宮廷への就職を手始めに、その後はアルンシュタット、ミュールハウゼン等、しばらく勤務先を転々とする。転々とするといってもド…

読書録:13歳からのアート思考

どちらかと言うと現代美術史入門本として僕は読んだ。 20世紀のアートの歴史は、カメラが登場したことによって浮き彫りになった、「アートにしかできないことはなにか」という問いからはじまりました。 そこから、マティスは「目に映るとおりに描くこと」、…

読書録:すぐわかる!4コマ西洋音楽史2

82ページの記述を引用。 いち早く立憲君主制による統治が成立し、産業革命が始まったイギリスにおいて、オルガニストで作曲家、音楽教師として活躍していたチャールズ・バーニーは、1776年から1789年にかけて、全4巻からなる『音楽通史』という本を著しまし…

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻(クリストフ・ルセ)

24の前奏曲とフーガをバランスよく1つの体系にまとめあげた稀有な演奏である。J.S.BACH/ DAS WOHLTEMPERIERTE KLAVIERアーティスト:ROUSSET, CHRISTOPHE発売日: 2016/03/11メディア: CD 24曲の始まりから終わりまで、まったく途切れることがない。各曲の特…

バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻(曽根麻矢子)

使用楽器:ヨハン・ハインリヒ・グレーブナー(ドレスデン)が1739年に製作した楽器(ピルニッツ城所蔵)をモデルにデイヴィット・レイが2005年に製作したジャーマン・タイプ・チェンバロ 調律法:マルプルグ調律法*1を基本に独自アレンジを加え、マルプルグ…

読書録:バロック音楽を考える

西洋音楽史の概説本を通読し、もう少しバロック時代について深めたい人向け。バロック音楽を考える Rethinking Baroque Music作者:佐藤 望発売日: 2017/04/08メディア: 単行本 第4章の音律論及び調律論はとりわけ有益である。 古典旋法において次第に臨時記…

中原中也:山上のひととき

風が吹く。 山上のひととき いとしい者の上に風が吹き 私の上にも風が吹いた いとしい者はただ無邪気に笑っており 世間はただ遥か彼方で荒くれていた いとしい者の上に風が吹き 私の上にも風が吹いた 私は手で風を追いのけるかに わずかに微笑み返すのだった…

中原中也:春日狂想

僕にとっては一番特別の詩だから、ここに載せることすら、ある種の恥じらいのようなものも幾分かあったわけだけど、いやなに、もはやそんなこと言ってるようなあれでも無い。 春日狂想 1愛するものが死んだ時には、 自殺しなきゃあなりません。 愛するもの…

ヘルダーリンと自然概念

ヘルダーリンの詩作の重要なテーマの1つである自然についての簡潔な解説である。 ヘルダーリンにとっては、自然は所与の外界以上のものであり、彼が生き呼吸する生活圏であり、それ自身がひとつの生きているものであり、彼を愛し支え包括するものであり、そ…