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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

ハイデガーの芸術観(1959)

1959年6月6日に『ヘルダーリンの大地と天』というタイトルで行われた講演には、ハイデガーの芸術(作品)観がコンパクトにまとめられた箇所がある。 ヘルダーリンによる書簡の一節を引用しそれを解釈しながら、ハイデガーは次のように述べる。 芸術とは、目…

ハイデガー『詩』(1968)

1968年8月25日になされた講演を推敲したテクスト『詩』は短いながらもハイデガーの思索を余すところなく伝える。1.詩人と神々の関係について 詩人が話すことは、示しながら、被い隠しつつ - 被いを取り除いて、 神々*1の到着を現出させるのに、必要とされ…

The Gospel according to John

第18章25~27節におけるペトロ。 Peter was still standing there keeping himself warm. So the others said to him, "Aren't you also one of the disciples of that man?" But Peter denied it. "No, I am not," he said. One of the High Priest's slave…

ハイデガーの技術・芸術論(1967)(後)

『Die Herkunft der Kunst und die Bestimmung des Denkens(芸術の由来と思索の使命)』(1967)の最終節においては、科学と方法の優位によって疎外されている人間性を回復するものとしての(芸術)作品が思索の鍵となるが、ハイデガーにあってその思索の根…

ハイデガーの技術・芸術論(1967)(前)

1967年4月4日にアテネ学芸アカデミーで行われた講演をもとに校訂された『Die Herkunft der Kunst und die Bestimmung des Denkens(芸術の由来と思索の使命)』にはハイデガーのKunst(技術・芸術)についての考えが端的に述べられている。技術への問い (平…

楽譜・楽器・人・社会からみる西洋音楽史

たとえばカール・ダールハウスが『Grundlagen der Musikgeschichte(音楽史の基礎)』(1977)で述べているように、名曲(古典)および天才作曲家の列挙が音楽の歴史を述べるときの最善手とは限らない。19世紀以来の伝統的な音楽史は教養主義やナショナリズム…

パウル・ベッカーのブルックナー論(後)

ベッカーは第8章第5節でさらに続けてこう述べる。オーケストラの音楽史: 大作曲家が追い求めた理想の音楽作者: パウルベッカー,松村哲哉出版社/メーカー: 白水社発売日: 2013/04/18メディア: 単行本この商品を含むブログ (2件) を見る 1.和声進行を重視し…

パウル・ベッカーのブルックナー論(前)

パウル・ベッカー(1882~1937)は『ベートーヴェン』や『西洋音楽史』等の著作で知られるドイツの音楽評論家である。オーケストラの音楽史: 大作曲家が追い求めた理想の音楽作者: パウルベッカー,松村哲哉出版社/メーカー: 白水社発売日: 2013/04/18メディ…

近代的芸術観の成立

我々が今日いわゆる「芸術」と呼んでいるものは正しくは「西洋近代芸術」と呼ばれるべきだろう。芸術の逆説―近代美学の成立作者: 小田部胤久出版社/メーカー: 東京大学出版会発売日: 2001/11メディア: 単行本 クリック: 6回この商品を含むブログ (5件) を見…

ブルックナーの弦五

ブルックナーがウィーンへ移住して10年、まったく評価されないなかただひたすら交響曲を書き続けていた頃、不思議な縁で彼は弦楽五重奏曲を作曲することになる。ブルックナー:弦楽五重奏曲アーティスト: ウィーン弦楽五重奏団,ブルックナー,クリスチャン(ト…

ハイデガーの現象学の基本的立場

熊野純彦の訳による『存在と時間』(岩波文庫)には簡潔明瞭な梗概が付されてある。存在と時間(一) (岩波文庫)作者: ハイデガー,熊野純彦出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2013/04/17メディア: 文庫この商品を含むブログ (14件) を見る 序論の第7節において…