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人文系の書籍やクラシック音楽の紹介を中心としたエッセイ集

バッハ作品おすすめ厳選記

 2020年7月時点で一度厳選したものに修正を加え、ジャンル別にリスト化してみた。とにかく曲の数や長さを絞るということに専念した。*1

管弦楽作品

(1)無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 第5曲 シャコンヌ
(2)ブランデンブルク協奏曲 第5番 第1楽章
(3)管弦楽組曲 第3番 第2曲 アリア(G線上のアリア

 バッハの音楽は実にエネルギッシュで躍動的である。堅固な構成卓越した対位法技術に裏打ちされたその力強い音楽に人は惹かれる。チェンバロカデンツァで有名な(2)はその真骨頂である。
 また一方で、息を吞むような静けさ、繊細さがもたらす優美な曲調も大変な魅力である。(3)は余りにも有名だが、いつ聞いても何度聞いても、感嘆の溜息を禁じ得ない。
 その両方を兼ね備えた、国や時代を超越する一曲が(1)である。いわゆるドイツ・バロックに成熟した器楽ジャンルの伝統を踏まえつつ、しかしバッハはこの作品で伝統や形式、ジャンルといった枠組みをすべて突き抜けてしまう。それも圧倒的かつ不可逆的に。バッハのシャコンヌには、すでに近代的・ロマン主義的な「表現」の理念が見え隠れするのである。

クラヴィーア作品

(1)パルティータ 第6番 第1曲 トッカータ
(2)半音階的幻想曲とフーガ

 ほとばしる情熱、パッション
 バロック音楽古楽はまったくもって「癒しの音楽」などでは決してないことを雄弁に語る2曲。いずれも半音階的なハーモニーが生み出す衝撃的な音響に人は驚嘆する。
 (1)がおさめられている『クラヴィーア練習曲集 第1部』はバッハの生前に印刷出版された数少ない作品のうち、もっとも初めのものである。音楽愛好家たちはこの曲を聞いて何を感じただろうか。

オルガン作品(オルガンコラール以外)

(1)前奏曲とフーガ ホ短調(BWV548)
(2)前奏曲とフーガ 変ホ長調(BWV552)
(3)パッサカリアとフーガ ハ短調(BWV582)
(4)幻想曲とフーガ ト短調(BWV542)

 バッハは作曲家というよりむしろオルガニストとしてキャリアをスタートしたわけだが、同時代の人々の認識も「ザクセン地方の凄腕オルガニスト*2」というものだったらしい。
 (3)は若き日のバッハのオルガン技法の集大成ともいえる作品。変奏曲+フーガという形式のうちに、やりたいことをすべて盛り込んだ傑作で、パイプオルガンという楽器そのものの魅力を存分に堪能できる作品でもある。
 かたや(1)や(2)は円熟の極みともいえる作品。揺るぎない構成感、洗練された対位法、よどみない楽想展開はまさに熟練の職人芸とも呼べるもの。
 ちなみに(4)は青年バッハが「就活」のために書いた作品で、自己PRに必死なバッハが透けてみえて興味深い。

補記1:番外編

(1)マタイ受難曲
(2)平均律クラヴィーア曲集 第1巻

 作品中の全曲を通して1つの体系ないし1つの世界観となっているような作品については、番外編として取り扱うことにした。
 (1)は、もはや音楽というくくりを超えた作品、超越的作品である。ただ一方で、この作品が典礼音楽劇の伝統を踏まえて作られたものであるということは付記しておきたい。
 (2)は、ハ長調からロ短調へ、そしてまたハ長調24の調をめぐるバッハの終わりなき旅路である。半音階的なモチーフを基調とするロ短調フーガ(最終曲)が終わるところ、ハ長調プレリュード(冒頭曲)のめくるめくアルペジオの世界が開ける。
 これはもはや循環的な世界観を予感させるような衝撃作である。もちろんこの作品も先人たちが遺した「練習曲集」というジャンル史の地平から生まれたものであるということは言うまでもない。

補記2:オルガン作品(オルガンコラール)

(1)O Mensch Bewein Dein Sunde Gross(BWV622)
(2)Wenn wir in höchsten Nöten sein(BWV 641)
(3)Liebster Jesu, wir sind hier(BWV731)

 最後はバッハ音楽の奥の院オルガンコラールの森である。
 もうこれははっきり申し上げて私の好みであって、まったくもって趣味の問題である。

 お気づきかもしれないが、カンタータをはじめとした声楽作品がマタイ受難曲以外1つもとりあげられていない。これはひとえに私がバッハのカンタータの世界をまだあまり知らないからである。今後、カンタータも全曲聞いていきたい。教会カンタータだけでも200曲近くあるのだけれども。


*1:厳選のポイントとして、心地よさや快よりも、いかに衝撃的でインパクトがあるかという基準で今回は選んでみた。

*2:むしろ凄脚か