東京上野の国立西洋美術館へ行ったことがある人にも、行ったことがない人にも、おすすめの一冊。
西洋画の解説本だが、まるで常設展の学芸員ツアーに参加しているような感覚をおぼえる、非常に贅沢な入門書である。
重要ポイントは第2章までで出尽くしているので、時間のない人はそこまで読めばエッセンスは理解できる。第3章以降は宗教画、物語画、風景画、静物画と、ジャンルごとに進んでいく。宗教画や物語画といった高級ジャンルから派生した風景画や静物画が、それぞれ確固としたジャンルとして確立されていく過程*1もわかりやすく解説されているので、もちろん西洋美術史の解説本としても読める。
ルネサンス、バロック、ロココといった時代区分や印象派、ジャポニズムなどの潮流は知っているけどそれ以上はあまり... という人に打ってつけの良書である。
*1:いずれも17世紀オランダにおいて確立されていったわけだが、それは(1)キリスト教世界観や古典古代といった規範の相対化や(2)中産階級の急速な拡大が主な要因として考えられる。ちなみに、風景画や静物画は19世紀以降、作者の自由な表現が許容される実験の場へとその性質を変えていった。宗教画や物語画は確かに荘厳高尚なジャンルだが良くも悪くも教養主義的だしジャンルの性質上、題材も決まりきっている。その点、風景画や静物画は作者のオリジナリティを最大限発揮できる自由な領域なのであった。こういった論理は音楽においても見られ、たとえば器楽ジャンルの地位向上(「歌詞」がない方がかえって意味が狭められず、自由で創造的である」)等、ヒエラルキーの下層ないし中心から少しずれたところにあるジャンルほど革新的でありえたりするのである。いずれもまさに、ある意味で近代的な・革命的な同時代的事象なのかもしれない。