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人文系の書籍やクラシック音楽にまつわるエッセイ集

読書録:ふしぎなキリスト教

 宗教社会学の立場から見るキリスト教入門である。

 日本はもとより世界的に見ても、多神教八百万の神々)こそ、この地球上で最も由緒ある、スタンダードな宗教類型である。
 にもかかわらず、現代に至るまで、世界の歴史を動かしつづけてきたのは、ユダヤ教イスラム教、そしてキリスト教といった一神教の文化圏の国々である。一神教への理解、そしてキリスト教への理解なくして、世界の動向はつかめない。

 本書では、ユダヤ教イスラム教、仏教や儒教との比較のうちにキリスト教の概要が明快に述べられている。
 キリスト教の最大の特徴は、イエスという一人の人物に集約される。イエスは、生身の人間であり、神の言葉を告げ知らせる預言者であり、救世主(メシア、メサイアないしキリスト)であり、復活に与る者であり、そして「神の子」(パウロである。パウロなくしてキリスト教はあり得なかった。
 そのほか、なぜ福音書が複数あるのか、そもそも預言者とは何者か、一時期たいへん話題になった『ユダの福音書』とはどんな書物なのか等々、キリスト教がどのようにしてユダヤ教から逸脱変質し、固有の信仰を構成するに至ったかが簡潔に述べられている本書は、やはり一読の価値あり。